今回は、水溶性の結晶を希釈する際の、誤差の伝わり方について考えてみました。
園芸で使う溶液を作る前に、一度きちんと定量的に見ておこうと思い立って計算したものです。

今回はクエン酸を高希釈するのですが、「一発で薄める場合」と「まず原液を作ってから薄める場合」で、
誤差がどう違うのかを具体的に比べてみました。

もちろん、電子天秤の有効桁数や家庭で扱える液量の範囲(せいぜい数リットル)を考えると、
高希釈溶液を一回で作るにはクエン酸の使用量があまりに少なすぎて、現実的には無理なのは分かりきっています。
でもまあ、それはそれ。私の性分なので、やらずにはいられませんでした。

条件まとめ

  • ケース①:1Lの水に結晶を入れて25,000倍に希釈
    • 水:1L(誤差 ±5%)
    • 結晶:0.04g(誤差 ±0.05g)
  • ケース②:2段階希釈(50倍→500倍)
    • 1段目:結晶10gを500mLの水に溶かす(±0.1g、±5%)
    • 2段目:その50倍液をさらに500倍希釈(体積誤差 ±5%)

誤差伝播の基本式

測定値の誤差が関数に与える影響を表す式です:

\[ \sigma_Q = \sqrt{ \left( \frac{\partial Q}{\partial x_1} \cdot \sigma_{x_1} \right)^2 + \left( \frac{\partial Q}{\partial x_2} \cdot \sigma_{x_2} \right)^2 + \cdots } \]

濃度 \( C = \frac{m}{V} \) の場合、相対誤差は以下の式で表されます:

\[ \frac{\sigma_C}{C} = \sqrt{ \left( \frac{\sigma_m}{m} \right)^2 + \left( \frac{\sigma_V}{V} \right)^2 } \]

ケース①:直接25,000倍希釈

濃度 \( C = \frac{m}{V} \) における誤差:

\[ m = 0.04\,\text{g},\quad \sigma_m = 0.05\,\text{g},\quad V = 1000\,\text{mL},\quad \sigma_V = 50\,\text{mL} \] \[ C = \frac{0.04}{1000} = 4.0 \times 10^{-5} \] \[ \frac{\sigma_C}{C} = \sqrt{ \left( \frac{0.05}{0.04} \right)^2 + \left( \frac{50}{1000} \right)^2 } = \sqrt{1.5625 + 0.0025} = \sqrt{1.565} \approx 1.25 \] \[ \sigma_C = C \cdot 1.25 = 4.0 \times 10^{-5} \cdot 1.25 = 5.0 \times 10^{-5} \] よって、相対誤差は約125%になります。

※注意:誤差が測定値より大きく、信頼性の低い希釈となります。

ケース②:2ステップ希釈

1段階目(50倍液):

\[ \begin{align*} C_1 = \frac{10}{500} = 0.02,\quad \sigma_{C_1} = 0.02 \cdot \sqrt{ \left( \frac{0.1}{10} \right)^2 + \left( \frac{25}{500} \right)^2 } \\ = 0.02 \cdot \sqrt{0.0001 + 0.0025} \approx 0.02 \cdot 0.051 = 0.00102 \end{align*} \] よって、相対誤差は約5.1%

2段階目(500倍希釈):

\[ \begin{align*} \frac{\sigma_{C_2}}{C_2} &= \sqrt{(0.051)^2 + (0.05)^2 + (0.05)^2} \\ &= \sqrt{0.0026 + 0.0025 + 0.0025} \\ &= \sqrt{0.0076} \approx 0.087 \end{align*} \] よって、相対誤差は約8.7%

結果の比較

方法 最終希釈倍率 相対誤差
① 一発25,000倍 25000 125%
② 二段階(50倍→500倍) 25000 8.7%

感想

そうだろうなという結論です。1ステップだと誤差が大きすぎて、ほとんど実用になりません。
ここまで極端な条件でなくとも、秤量がしにくいと思ったら2段階希釈が良いです。

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